「何ともなしにぼちぼちと始めましょうか」
 よくある怪談話のひとつに「さっきまでそこにいたはずの人が次見た瞬間いなくなっていた」とかゆうのがある。
 現在俺の前にある廃ビルもそんな噂のたえない場所だ。
 今日学校にいるとき部活でその手の話題をしていた時のこと―――
「―――というわけで、あのビルにいってみたいと思います」
「・・・は?」
 俺の所属する伝記文化研究部は部員86人と人数が多い。
 しかしその中でも部室に来てるのは3年の部長を除くと2年で副部長である俺、書記である2年の女生徒、あと役職はまだない1・2年が2・3人ちらほらという程度で日頃から10人に満たない。
 うちの学校は部活は強制の為、帰宅部になりたい生徒がうちを経由するというかたちになっている。
 そのことに学校側も気付いているのでいつまでも研究部から抜け出ることができず、予算をもらうことは出来ない。
 そんな部活で話す内容は主に市内の怪談話。
 機会があればそのときいる部員で現地を覗きにいったりしている。
 今までも「写真を撮ると必ず霊が写る滝」や「出口で後ろを向くと女の声が聞こえる使われていないトンネル」等を見に行き、一度もそういう体験はしていない。
「とゆうわけで今日の10時に―――」
「ちょっと待った!」
「ん?」
 先ほどから強引に話を進めているのは書記の女子部員、金澤景子。
 大概いつも発案者は彼女だ。
「いやね、時期を考えよっか?」
 俺がそう言うと彼女はきょとんとした顔をしている。
 時期―――そう、今は試験週間。
 しかも明日から試験だ。
 さすがに赤点を取ることはないにしても、今日何もしないと酷い目にあうことは間違いない。
「ん〜・・・・だって今日逃がすと、次の新月は一ヶ月先だよ?」
 確かに新月の周期は約29,5日。
 新月の日にしか現れないというそのビルの人影を見るには今日を逃がすと来月までは見れない。
「しかしだ、試験だって後輩の都合とか考えろよ?俺らと違って初めての試験なんだから対策とかが出来ないんだぞ?」
「そんなものどうとでもなる・・・・いや、わかったわ」
 俺が「ならねぇよ!」とツッコミをする前に彼女は意見の方向性を変えた。
「まぁ・・・そういうわけだから今回は・・・・」
「2年以上で行きましょう」
 ・・・・そうきた。
「俺は今年は進学かかってるからパスな」
 そういったのは部長。
 まぁ確かに、3年は来年の頭には入試があり、それを受けたくない部長は推薦でどうにかしようと思っているのだから今回の試験は重要なわけだ。
 そのことは金澤もわかったようだった。
「じゃあ2年生で・・・」
 しかし、その言葉を言い切る前に俺以外の2年生は部室からいなくなっていた。
 俺が横目で残っている一年を見る。
 一年は苦笑いをしながら、部室の出入り口を見ていた。
「あいつら・・・・」
「・・・・今いる2年生で行きましょう!」
 つまりは・・・・
「俺と・・・・・?」
 金澤はコクリと頷いた。
「――――いやらしいこと・・・」
「してもいいよ?する勇気があるのなら」
  するかもよ?と言い切る前に言われる。
 金澤という女性とは相当に可愛いのだが武道経験があり、下手をすれば俺なんて10秒でたたまれる。
「・・・しないでね?」
「するか!」
 とりあえず、俺は逃げ道はもうないようだと腹を括り、付き合うことにした。
 そして夜になり、ビルの前に着き、ぼちぼち始めようという既に中に入っている彼女の言葉を聞いて俺はビルの中に入っていくこととなった。

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