『佐々木 誠』視点はこちら→

一章/

「性別や年齢など関係なく、君の周囲にいる誰かが君を変える可能性は大いに或るわけで・・・」
「はぁ・・・・」
「その人物を探すために、夏休み俺とともに旅に出よう!」
「・・・は?」
 それは大学1年の春だった。
 今年から大学1年になった俺は、大学生活2日目を迎えていた。
 入学式を終え、少しゆとりが出来た俺はサークル見学に出向いていたのだが、そこでめぐり合った一人の新入生にいま突然話しかけられているという状況だ。
「まずあんた・・・君の名前は?」
「ん?そうだねぇ・・・ペンネームとかでもよろしい?」
「出来れば本名で・・・」
「そっか、じゃあまあ、木菜 大輔(キナ ダイスケ)です。よろしく」
 よろしくされたくない雰囲気ではあるが、一応差しだされた手と握手をする。
「そちらは?」
「・・・」
 名乗ったら強制的に交友を持つことになりそうだが、俺の目標は友達1000人!
 ばかばかしいようだが本気だ。
 そういった意味では俺も変人・・・・いや、変人以外の何者でもないか。
 ならば名乗っても差し支えはあるまい。
高村里佳(タカムラ リカ)いいます
「女の子みたいな名前やね。里佳ちゃんゆうていい?」
 (・・・ぶっ殺しますよ?)
「なうべくそうゆうのはやめてください」
「今妙な間があったのは・・・・」
「気にしたら負けです」
「君も変わった人やね〜」
「あんたには・・・ってか「も」って事は他にも?」
「俺」
「一応自覚はあったンすね・・・・」
「あはは」
 まるっきり息が会わないわけでもない自分が少しいやだ、とも思ったが、大学生活を順当に送れば4年間、こうゆうやつのほうが長続きしそうだなと思ったのもまた事実。
 そうゆう波長のようなモノを読み取られた結果ゆえ、こうして話しかけてきたのかもしれない。
 そんなオーラ・・・でてんのかなぁ・・・・?
「でもなんで急に旅だなんて?」
 もう結構気心知れて、普通に話しかける俺に対し、相手も気さくに話しかけてくる。
「行きたくない?」
「経緯をまず説明してくださいよ」
「ん〜・・・ちょっと理由があって・・・・」
「メンドイとかいったら殴るぞ」
 しゃがみこんで頭を抱えて震える動作とかをしている目の前の男性に、俺は殴るマネをする。
 あたりの人がこっちを見ていることに、俺も木菜も気付き、俺は彼に手を差し伸べ、軽く微笑みながら引き起こす。
 木菜も有難うと頭を軽く下げ、失笑。
「ほら、気が合いそうじゃない?俺ら」
「そうやね」
 だから話しかけたのさ、といいたそうな顔をしているが、そこまで言うのはベタだと思ったのか口をパクパクさせているだけだ。
「で、なんだって?」
 彼は口をパクパクさせている。
「誘った理由は?」
 口をパクパクさせている。
「・・・・・・・・・?」
 彼は口をパクパクさせている。
「声がでないのか・・・・?」
 しかし数秒後気付いた。
「俺が・・・・聞こえてない?」
 風の音も、構内の他の生徒の歩く音音も何も聞こえない中、後頭部にぶつかってきた軟式の野球ボールで俺は気を失った。

 

二章/

「あ〜・・・目をさましたっぽいです」
 明るく輝く室内のベッドの上で目を覚ました俺は、ゆっくりと起き上がり辺りを見回した。
「・・・・・・・」
「混乱してる所悪いけど、落ち着いたらちょっといいかな?」
 長身の女性がこちらを見ながら問いてきた。
 その声を聞いた俺は、とっさに耳を抑えた。
「大丈夫でしょ?もう聞こえてるはずだけど・・・」
 確かにはっきりと聞こえている。
「ここは・・・どこっすか?」
「ここ?大学の構内の医務室」
「・・・・・・・・」
「今度はこっちからいいかな?」
 俺は何も言葉を発さずにコクと頷いた。
「毎日きちんと耳掃除をしてる?」
「・・・・・シュールな質問ッスね」
 半ば夢かと思ってしまっていた俺は、思ったことをそのまま口にしていた。
「まったく・・・耳鼻科とかに運ぼうか考えて、ふ、と耳を見てみたらこんなのが詰まってたのよ?」
 そう言って、長身の女性は何か赤黒いBB段くらいの大きさのものが乗ったティッシュのような布切れを俺の前に置いた。
「これは・・・・?」
「耳垢。まったくもう・・・きちんと掃除してないでしょ?耳」
「夢じゃないですよね・・・?」
「はい?」
 まぁ、夢だとしても今の質問は解決に繋がりはしないが、少しずつ冷静になった俺の脳は耳の奥にひりひりとした痛みがあることを認識し、其れが現実である事を示唆してくれた。
「ものすごく硬くこびりついてて・・・・大変だったのよ?少し血が出てきたから消毒しといたわ」
「はぁ・・・あの、え?」
「だから、耳掃除をきちんとしてないんでしょ?普段。だから耳垢がたまっていって、何かの弾みでうまく耳の穴をふさぐかたちになったんでしょ」
 つまり、普段からの生活が原因だった、と。
 それにしても・・・。
「はずいっすね」
「君が悪い」
 言い返せるわけもなく、下を向く。
「そうそう、君の事を伝えにここに来てくれた女の子とそこの人に感謝するんだね」
 そこの人とは、言うまでもなくすぐ横でこっちを向いて手を小さくあげひらひらさせている木菜だったが・・・・。
「『おんなのこ』っすか・・・?」
「ああ。いくらなんでも理由もわからず倒れた奴を運ぶのもあれだったしな。すぐそばを通ってた女性に呼んでもらったわけだ」
 答えたのは木菜。
「救急車を呼ぶって選択肢はなかったわけ?」
「携帯を持ってないしなぁ・・・。それにたいした事なくて呼んで診療費取られるのもあれだろ?」
 それはそうだが・・・最後のは後付けだな、とか思った。
「まぁ助かったよ。サンクス」
「親友だからな」
 お約束の格上げ現象。
「変わった二人同士、仲がいいな」
 クスクス笑いながらそうもらす『保険医』。
「俺も変わってます?」
「まぁすくなくとも、普通に話してサンクス、とか言う人が普通とは私は思わないけどね」
 なるほど、と納得がいった。
「そういやその女性って?」
 俺は助けを呼びに走ってくれたという女性らしき人がこの部屋にいないのを確認してから、木菜に訊いた。
「そこ」
「?」
 そこ、と彼が指差した先には、カーテンがひかれていた。
 どうやらカーテンをはさんで向かいにいるということらしい。
 頭の中に選択肢がでてきた。

1 冗談っぽく声をかける
2 普通に声をかける