「あ〜・・・・ユカ、だってさ」
「名前に華ってついている女性は大体ブスなのよ?あと”美”ね」
 多分『ゆ華』だと思っているのか、初対面の人の名前に対してケチをつける母親様。
 家に帰ってみると既に母親はいて、案の定騒ぎだした。
 ひとしきり騒いだ後、とりあえず名前やら経緯やら紹介しろということだったのでとりあえず茶の間のソファー(というには少し固すぎる)に腰をかけ、まずは名前から言う事にした。
 そこでこれだ。
「・・・・・加えるですから」
 苦笑いをしながら”ゆかちん”はポッケに入っていた”遺書”の裏にボールペンでサラサラと名前をかく。
 母親はそれが遺書である事に気付いてはいないようだ。
 彼女が書いた名前を見て、ほ〜、とあからさまな感嘆の声を漏らし、彼女に向かってニッコリ微笑んで良かったねとかいっている。
 有加ももう慣れたのか「ハイ」と笑顔で返している。
 つうか偏見もいいトコだろ。
 俺の初恋の人も”華”ってついていた気がするぞ?
 次の人は”美”ってついていたし・・・。
 知っててわざとか?
「大抵はブスなんだよ、ついていると。ね?」
「・・・・知らんよ」
 こっち見てにや〜っと笑いながら語りかけてきているし、わざとか。
「まぁ、実際美人さんだから、違う字なんだろうな〜とは思ったけどね」
 物凄い嫌見たらしく言っている。
 実際美人な部類だとは思うし、この態度がどういう意味なのかはよくわからない
 とりあえず、彼女をからかっているのではなく俺をからかっている気がする。
 ・・・・・・・・・・・っていうか名前なんて関係梨なしに美人な人は美人だから。
 なんかいっておかなきゃいけない気がした。
「で、どういう経緯?」
 きた。
 かなり答えにくい。
 正直に言ってもどうってことはないだろうけど・・・。
「黙秘します」
 あんまり好ましい内容でもない。
「ふ〜・・・・ん」
 母親は先ほどの彼女の名前の書いた紙を見ている。
 あれが遺書だとは気付いていない気がする。
 ただ、あれがなんらかの関係があるとは気付いている気がする。
 あくまで気がするだけだが。
「・・・・ま、じゃあいいや。今日はこの後は?」
 ・・・・気付いているのかな、やっぱ。
「出来れば時間も時間だし泊めたいんだけど・・・・」
 まだ時刻は夕方の5時になっていないが。
 少し母親は考えているかのように腕組をして俺と彼女を見比べている。
 多分何も考えていない。
「よし、いいよ。但し、部屋はコイツと一緒ね」
 何故か亀を指差しながら言っているが、目線は俺を向いている。
「えっと・・・・じゃあこっちの部屋ね」
 母親には特に何も言わずに、彼女に自分の部屋のほうにくるよう促す。
 彼女は一瞬困ったような顔をして、軽く母親に会釈をした。
「ちょろしくおねがいします」
 ・・・かんだ?
 頭を下げた状態でかたまる”ゆかちん”。
「こちらこそ、ちょろしくおねがいします」
 あえて同じとこで間違える母親。
 嫌味にも聞こえるが、そういう流れとして閉じる事が出来る返し方だと思う。
 善意に取れば、だが。
 とりあえず当の本人は赤くなって固まったままなので、ずるずる引きずって部屋に運ぶことにした。
「服が!服がのびる!」
 再起動。
 しかし無視してそのまま部屋に運ぶことにした。
「夕飯までには済ますんですよ」
「・・・・なにをだよ」
「さぁ?」
 とりあえず下世話なネタをしようとしている母親とこれ以上話すのは無益と判断。
 それ以上言葉は交わさず、部屋に入ってドアを勢いよく閉めた。
 ・・・・・・ガキっぽかったなぁ。

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